planet;nakanotori

天文・鉱物・その他。調べたことや自分用のメモなどを書きます。

天象儀のこと

国立天文台の展示を観ていて気になったものがこちら。

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以前の記事ですこしだけ触れた太陽系儀と似ていますが、ここでは「天象儀*1という表現で紹介されていました。ネットで天象儀を検索すると、プラネタリウムの別名というふうに紹介されていますが、国立天文台的にはこれが天象儀ということだそうです*2

 

「天象」という言葉も検索してみると、言葉の意味を明確に意識した情報は少なく、どちらかというと創作の素材に使われるかっこいい単語という側面が目立ちます。一般的な天文学/天文現象との関わりで使用されているのは国立天文台暦計算室の天象のページです。そういえば私が天象という単語を知ったのはこのページからなのでした。

 

また、天球儀という言葉で表現される工作物もまた、この天象儀と同様の形態をしている物があります。天球儀の画像検索の結果を見てみます。

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いくつものリングを組み合わせた天象儀タイプもあれば、地球儀と同じ姿で天球上の恒星や経緯線が描かれたものもあります。前者のものを特にアーミラリ天球儀と言うこともあるようです。

 

東洋では、渾儀と呼ばれる同様の形態を持ったものが中国で発明され、日本にもレプリカが建造されています*3。天体の動きを説明する模型というよりもずっと大型で、目盛り付きのリングを実際の星に合わせて回転させ天体の位置を観測できる赤道儀としての機能を果たすものだそうです*4

 

他にも渾天儀、渾象儀、アストロラーベなどの類似表現があるようです。なんだか混乱してきました。現代において実用品ではない以上、科学史/産業史の文脈以外では厳密に整理する必要がないのでしょうが、ともかく天象儀スタイルのメカにはいろいろな呼び方があるようです。

 

個人的には響きのかっこよさで「天象儀」と「アーミラリ天球儀」による決勝戦をしたいです。かっこよさだけで択ぶなら甲乙つけがたいですが、短くて使いやすいという点で天象儀という表現を使いたいなと思います。日本語の中で使うなら、やはり五七五のリズムに収まる規格の言葉が好きです。

 

*1:この記事ではとくに冒頭の写真にあるものを指すとき、斜体で天象儀と書きます

*2:プラネタリウムは"天象投影機"と言うべき、と説明にありました

*3:長野県にある水運儀象台に設けられています

時の科学館 儀象堂 http://gishodo.jp/

*4:放送大学テキスト『宇宙を読み解く'13』(吉岡一男,海部宣男 著)に解説があります。

天体撮影とLynkeos

天体写真のスタックや画像処理に使うLynkeosというソフトについて書きます。

 Mac用(10.6以降)です。 公式はこちらへ→ Lynkeos home page

 

youtu.be

まずは使用法を解説した動画。Lynkeosのチュートリアル動画はなぜか無音のものばかりですが、シンプルなソフトなので「見て盗め」式で事足りてしまうのでしょう。とはいえ日本語で書かれた情報が少ないので、ここで簡単にまとめます。基本的な内容は公式のWikiに準拠。

 

基本的な作業工程は

読み込み(Lists)

   ↓ 撮影した画像の読み込み。連番の静止画でも動画でもよい。

フレームの位置合わせ(Align)

   ↓ 画像の基準になる点を指定し、各フレームに写っている天体が同じ位置に来るように調整。

品質の解析(Analyse)

   ↓ フレームごとの品質の判断。品質の低いフレームは除外する。

スタック(Stack)

   ↓ 位置を揃えて品質で選別にかけたフレームを合成して一枚の画像に。

画像処理(Deconvolution/Unsharp mask...)

   ↓ コントラストやシャープさの調整。

という順番です。

 

例1:静止画複数枚からのスタック

 まず、連続して撮影した普通の写真で試します。

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jpeg撮って出しの冬の大三角〜オリオン座の写真を使用します*1。三脚も使わず、柵の上に置いたカメラで連続して撮った9カットの写真です。レンズはキットレンズ(広角端)にソフトフィルターを付けたもの。僅かに日周運動の影響で星の位置がズレています。比較明合成すれば短いながらも星の軌跡のわかる写真となります。

 

まずはLynkeosを起動し、ファイルをそのまま読み込みます*2ドラッグ&ドロップで放り込めば完了。

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読み込んだファイルが一覧に表示されます。 ファイルをクリックして選択状態にすれば右側に画像が表示されるので、確認もできます。

 

Alignをクリックします。星のズレを読み取るために、サンプルとなるエリアを選択します。画像の上でドラッグをすれば赤い枠で囲えます。ここではシリウスとその右下のおおいぬ座βを選択しています。

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Referenceというチェック項目は、位置合わせの基準を意味します。一つの画像にしかチェックが入れられません。このチェックが入った画像に他の画像の位置を合わせます。

Specificという項目は全ての画像に設定できます。デフォルトでは他の画像を選択しても赤い枠は動きませんので、星の動きが大きい場合は枠から外れてしまいます。Specificのチェックが入っていると各画像に対して赤い枠の位置を設定できます。Optionキーを押しながら赤い枠をドラッグすると、自動的にSpecificになります。

 

この例では使用する画像の枚数が少ないのでAnalyseは飛ばしてStackに移ります。右の窓で最終的な画像のサイズを赤い枠で決めてStackをクリックすると、あとは処理が終わるのを待つだけです。

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Double sizeというチェックを入れると、スタック時にピクセルを水増ししてくれるようです。どこまで有効なのかは不明。DeconvolutionやUnsharp maskで画像処理もできますが、ここでは割愛します。最後にSave imageで画像を保存します(形式はtiff)。

 

処理前のReferenceの画像と処理後の画像のミンタカ周辺を拡大してみた画像です。

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左が処理前、右が処理後

画像のノイズがきれいになっているのがわかります。

 

汎用の画像ソフトでコントラストや色の調整を行えば下の写真のようになります。

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例2:動画からのスタック

今度は惑星の画像を作成します。星野写真なら通常の画像ソフトでも処理可能ですが、ここからはLynkeosの面目躍如です。

 

天体望遠鏡で拡大撮影*3した木星の動画です。合成焦点距離はおよそ9500mm*4

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読み込みかたは静止画のとき同じです。何も考えずドラッグ&ドロップで放り込みます。

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Alignでは木星を囲って処理をします。

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次はAnalyse。位置の揃った木星をふたたび囲み、Analyse開始します。

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 画像のリストのいちばん右の列の"Quality"という項目に、自動的に数字が並びます。これが解析された各コマの品質です。

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 Autoselectのスライダーではコマの選別のしきい値を設定します。ここで定めた数字未満のコマは自動でチェックから外れ、スタックの対象になりません。もちろん、手動でコレはないだろというコマを除外することもできます。

 

Stackを行います。出来上がった画像は明るくなりましたが、ぼんやりしています。

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次に画像処理に入ります。

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 gammaやRadius、Gainを操作して画像を調整します。徐々に木星の縞や大赤斑が認められる程度に浮き上がってきました。他にも調整する項目はありますが、やり過ぎると動作が不安定になりやすいため程々にします。

 

完成した木星の画像です。

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 処理をかけ過ぎると画像処理臭さが出てしまうため、バランスが難しいです。今回の目的は大赤斑を確認すること、木星が極方向よりも赤道方向に直径が大きいことを確認する点にありますので、多少の臭みには目を瞑ります。
 

撮影に使用した望遠鏡は6cm屈折のf=800mmという小さなもの、空は肉眼で3等星が見えれば御の字といういまいちな環境ですが、ささやかな遊びを拡張する程度には楽しめるようです。

*1:近隣の建物を避けるためにトリミングしています。光害がひどいので、星の数はあまり多くありません。

*2:ファイル名が変ですが気にしないでください

*3:直焦点ではなく、天体望遠鏡の接眼レンズから出た像をカメラのセンサーに当てる撮影方法です。ちなみに今回は接眼レンズの前に天頂プリズムを挟んでいます

*4:拡大撮影時の合成焦点距離の計算方法はこちらのブログ記事を参考にしました↓

hoshi2.hatenablog.com

(同じはてなブログでしかも同じデザインでした!

最近買った、小さなカメラのこと

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いままで使っていたデジカメが壊れてしまったので、1月に新しいカメラを買いました。LumixのGM5という機種です。普通のコンデジからの置き換えなので、安くて小さいものを選びました。大きさの比較のため傍に毛抜きを置いてます。このカメラ以外にまともに写真が撮れるものがないのでいろいろひどい画像です。

 

とても機敏なカメラです。スイッチを入れてすぐ使えます。意地悪して何度もON/OFFを切り替えてもすぐに撮影できます。AFもパシっとハマります。悪・即・斬です。ブラックボックスでの処理が人を待たせません。

 

ただし電子接点のないレンズを使うと電子シャッター強制になるところは不可解です。コンニャク現象が出ます。完全に盲点でした。色々なレンズで遊べるミラーレスの利点を一つ潰してしまうので、ファームウェアでの修正を期待しています。でも発売から時間が経っているし高級機でもないので多分ムリかな…

 

多目的な光学センサーとして柔軟に遊べるとなお良いのですが、まだ未知数です*1。カメラ用レンズを取り付ける以外の無茶な使い方もしたいので、ゴミ取り機能が優秀なところも大事にしたいポイントです。

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*1:そういう用途ならソニーオリンパスがカメラをコントロールするためのSDKを公開しているので、そちらを利用したほうが面白いかも

Cameras | Sony Developer World

オリンパス OPC Hack & Make Project

ヒッパルコス星表のデータを取得する

ヒッパルコス星表のデータを取得して、使いやすいようにcsv形式にします。

 

【まめちしき】ヒッパルコス星表はヒッパルコス衛星という観測衛星によって観測された星のデータベースで、一般的に星といわれるものの位置や視差、明るさ、スペクトル型などを含む網羅的なデータベースです。

 

国立天文台のデータアーカイブセンターで種々のカタログデータがまとめてあり、その中にヒッパルコス星表も含まれています。

 天文データアーカイブセンター *1

 ┗天文カタログ、学会誌論文中の表データ、関連情報 *2

  ┗カタログ一覧(HTML形式)

   ┗1. Astrometric Catalogues

ここにある1239  The Hipparcos and Tycho CataloguesからダウンロードするFTPサイトに飛べます。NASAでもCDSでもいいので、hip_main.dat.gzというファイルがお目当てのヒッパルコス星表のデータです。

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しかし、このデータはヒッパルコス星表の全ての項目を丸ごとテキストにしており、サイズは53MBほどあります。12万行近いデータは取り回しが面倒であり、これら全ての情報が必要になるケースも限られます。

 

以下に掲げるNASAのサイトでは、ほしいパラメーターの種類・範囲を選択することで必要最小限のデータを抽出・ダウンロードすることができます。

HEASARC Browse: Search of STAR CATALOG Catalog(s)

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左のチェックボックスで取得したいパラメーター(列)を選びます。"Query Terms"というところでは数値の範囲を指定できます。たとえば"vmag"(視等級)の行で"<1.5"と入力すると、1.5未満*3の視等級のデータだけを抽出することができます。

 

各パラメーター(列)の説明はこちらのページにあります

HIPPARCOS - Hipparcos Main Catalog

 

ここではname, ra(赤経), dec(赤緯)*4, vmagの4つで試してみます。

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 ページの下の方に行くと、色々なオプションがあります。Coordinate SystemはとりあえずJ2000(2000年分点)で大丈夫です。Limit Results Toは状況に応じて設定します。今回はいわゆる1等星だけを抽出するので、20では足りませんが30あればお釣りが来ます。

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Start Searchをクリックすると設定の通りにデータが抽出されます。データ量によっては時間がかかります。今回は一等星だけなので、すぐに表示されました。

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実はここに上がっているデータは22行になっています。一等星は21個として知られていますが、実はケンタウルス座αは連星であり、そのうちの2つが一等星クラスの視等級です。肉眼ではひとつの星に見えます。そんな事情から、ここでは22個の星の座標データを得ることになりました。今回のように少ないデータならこの表を直接エクセルにコピペすることもできますが、もうすこし大きい場合はページ上方にある"Save All Objects To File"をクリックすることで結果をダウンロードできます。

 

ダウンロードしたテキストは、先の国立天文台のサイト経由でダウンロードしたものと同じやり方で区切られたデータです。

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各パラメーターは固定長になっています*5。データの区切りは"|"です。これをcsvになおします。

 

適当なスクリプトで処理するのもいいですが、ここでは簡単にExcelをつかいます。コピペすれば自動でどうにかなります。ならない時も、"区切り位置"という機能を使えば自由に区切り記号を指定できます*6

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あとは名前をつけて保存をするときに、csv形式を指定すれば完了です。

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できました!

 

 

※輝星星表の取得のやり方はこちらを参照してください。

coelostat.hatenablog.com

*1:2018年10月24日現在、天文データセンターにはつながらないため、天文データアーカイブセンターへリンク先を切り替えました。

*2:2018年10月24日現在、上位ディレクトリの天文データアーカイブセンターのリンクが「休止中」というページに飛ばされてしまうため、直リン貼り直ししました。

*3:あくまで数字の上で1.5より小さいので、1.5等より明るい星のことです

*4:raは時分秒、decは度分秒で表記される形式です。十進数のデータが欲しい時は少し下にあるra_deg、dec_degを選択します。

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*5:文字数が揃っている、ということです

*6:Mac用のExcelなのでWindowsでは振る舞いが違うかもしれません

天の北極と天の赤道と周極星のこと

この前の冬至の記事の要領を用いて、今度は北極星天の赤道の高度と周極星などについて書きます。また、この記事では説明をシンプルにするため、北半球からの観測のみを考えるものとします。

 

0.天球と赤道座標のこと

前提知識として、まず天球の解説をします。

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見かけの宇宙を、地球を中心とした半径が無限遠の球体とみなす概念が天球です。天文学の文脈では、地球上の北極、南極、赤道、経緯度などを天球上に転写した座標系をよく用います。それぞれ天の北極、天の南極、天の赤道赤経赤緯と称し、これらを用いた座標系を赤道座標と呼びます。天域や天体の所在地などを数値で表現できます。

 

1.天の北極(北極星)の高度

北極星*1の高度を求めます。

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太陽と同様、北極星無限遠にあるとみなせるため、地球の直径程度の視差は無視します。今回は簡潔に、地球を表す円周を省略して考えてみます。fig.2のように、円周を縮小し、中心点と重なるくらいにまで小さくしたと考えても大丈夫です。

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太陽の時と同様、円周の接線と北極星とのなす角が北極星の高度です。北緯36°の観測者から見た北極星の高度は、fig.3より36°です。天の北極は観測地点の北緯と同じ値になります*2。また、北極星の高度を測ることで、北半球の観測者は自分の現在地の緯度を知ることができます。

 

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なお、北極点(北緯90°)では天の北極は地軸の延長上、真上(高度90°)にあります(fig.4参照)。次に赤道直下(北緯0°)からみた北極星ですが、こちらも簡単です。地軸と同じ方向にある北極星は水平線と重なり、高度は0°となります(fig.5参照)。

 

 

2.天の赤道のこと

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地球の赤道から見て真上にくる大円が天の赤道です。冬だとオリオン座の真ん中を通っています。写真の三つ星の一番右、ミンタカという星がほぼ天の赤道上にある星なので、オリオン座を見つけたら「あの辺に天の赤道があるんだな」と思ってください。天の赤道を境に、北が北天、南が南天となります。

 

天球の緯度を表す赤経で90°の地点は天の北極、0°の地点は天の赤道です。ミンタカの正中高度、つまり天の赤道の一番高いところの高度は、北極星と同じように計算できます。

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北緯36°の観測者から見た場合、fig.6より90°-任意の緯度から計算できることがわかります。北緯36°の地点からだと、90-36=54°ということになります。赤道直下(北緯0°)ではもちろん高度90°、北極点(北緯90°)では水平線と重なり高度は0°です。

 

 

3.天球の観測南限*3

北半球から天の南極は見えず、南半球からは天の北極が見えません。観測地点によって天球の見える領域に制限があります。たとえば東京からみて、冬に見ることの出来るカノープス*4という一等星は正中時にすこしだけ水平線上に顔を出し、すぐに沈んでしまいます。東京近辺の緯度からだと、カノープスより南の星は常に水平線の下に隠れてしまい、見ることができなくなります。前節の北極点からみたミンタカと同様に、観測者から見た高度が0°付近というのは、そこが観測可能な天球の南限ということになり、もっと南の観測地からでないと見ることができません。

 

観測地点の緯度から、天球がどこまで見えるのか計算してみましょう。天球の緯度は北緯と南緯に分かれておらず、まとめて"赤緯"とよびます。天の北極が+90°、天の赤道が0°、天の南極が-90°です。南天の緯度はマイナス符号を付けて表すことが出来るわけです。

 

繰り返しですが、水平線の高度(高度0°)は90°から観測点の緯度を引くことで求められます。

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 東京を北緯36°とすると、ここから見える天球の南限は赤緯-54°となります。考え方は天の赤道を求める時と同じですが、天の赤道の場合は水平線を起点にして54°、こちらのケースでは天の赤道を起点にして南方に54°となり、南天なのでマイナス符号になります。

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fig.8は、北緯36°の観測者の地平を図中で水平となるようにおいたものです。カノープス赤緯が約-52°です*5から、正中時でも水平線からわずかに2°上方に登るのみとなります。赤緯が-54°よりも南の天体は東京よりも南の地域に行かなければ観測できないということがわかりました。

 

 赤緯約-57°のアケルナル*6の場合、東京からだと最大でも水平線の3°下方になるため、見ることができません。北緯33°の地点で水平線と重なり、北緯32°から見ると水平線から1°だけ顔を出します。

 

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ついでとばかりに、全天に21ある一等星の正中高度を全て図示しました。円周は天球です。*7

 

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これら一等星の全てを見ることの出来る地域も求めることができます。一番北のカペラから一番南のアクルックス(みなみじゅうじ座α)までの範囲が水平線の下にはいらないエリアを求めます。

アクルックス*8が高度0°となる緯度は90-63.06=26.94・・・①

カペラ*9が高度0°となる緯度は90-46=44・・・②

 ①は最も南の一等星が見える限界、②は最も北の一等星が見える限界ですので、北緯26.94°〜南緯44°までのエリアなら全ての一等星を見ることが出来る計算になります。ただし①や②の緯度では高度が0°であり、実際の観測は困難です。余裕を持ってアクルックスもカペラも15°以上の高度に上がるエリアとなると、北緯11.94°〜南緯29°となります*10

 

余談(^q^)→*11

 

4.周極星

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 今度は北向きの話です。北半球で北の方角をみると、天球は北極星を中心とした回転運動をしているようにみえます。北極星は年中沈みません。北極星に近い星も水平線の下に隠れないため、一年中観測できます。このような星を周極星と呼びます。北極星からどこまでが周極星なのかを計算します。北を向き、観測者からの見かけの高度が0°の水平線上が赤緯何度になるのかを求めれば、周極星を決定することができます。

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北緯36°の東京で考えます。水平線を起点にすると、北極星(天の北極)の高度は観測地点の北緯と同じであることは先に書いたとおりです。したがって北極星(天の北極)から水平線までは(赤緯)90°-(北緯)36°で54°となります。つまり、東京から見ると赤緯54°以北の天体は水平線下に沈むことなく一年中観測することができることがわかりました。

 

同じように、北緯90°の北極点では天の赤道以北のすべての星が周極星となり、赤道直下では周極星がないということも簡単に理解することができます。

 

 

*1:今現在、北極星として知られているのはこぐま座のα星・ポラリスです。実際には正確に天の北極にあるのではなくわずかにズレていますが、まあ大体北極でOKでしょという感じです。1000年単位でみると、天の北極は動いており(歳差運動といいます)ポラリス北極星なのは一時的なものです。歳差運動についてはまたそのうち書きます

*2:南半球では、観測地点の南緯が天の南極の高度と同じ値を取ります

*3:この言葉は私がいま適当に作ったものですから注意してください。ちゃんとした表現も探せば有りそうなのですが、私は今のところ知りませんm(_ _)m

*4:りゅうこつ座α星。全天で二番目に明るい一等星です。

*5:赤緯-52.42° 赤経6h24m 理科年表 平成28年版p.109による

*6:エリダヌス座α星。エリダヌス座は東京からも一部見ることができますが、アケルナルはエリダヌス座の南端の方にあり、見ることができません

*7:fig.9中の赤緯はすべて理科年表 平成28年版による

*8:赤緯-63.06°

*9:赤緯46°

*10:①・②の値からそれぞれ15を引いて求めました

*11:余談ですが、映画『ビルマの竪琴』(市川崑監督 1956年版。1985年版は見たことがないので脚本の差異などは知りません。)のラストで水島上等兵が隊の仲間に宛てた手紙の中で「わたくしは ビルマの国にいて 雪のつむ高山から 南十字星の輝く磯のほとりまで いたるところをさすらって歩きます」というくだりがあります。ビルマ(いまのミャンマー)をみると、

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国土の北端付近はヒマラヤ山脈の東端にかかり、南端はアンダマン海という海に面した北緯10°前後の地域となっています。まさに南十字星が見える沿海地域です。この手紙の一節は、ビルマ全土を端的に言い表した表現だったということがわかります。

ミャンマーの地形図の引用元(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC#/media/File:Burma_topo_en.jpg)