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天文・鉱物・その他。調べたことや自分用のメモなどを書きます。

【読書感想文】科学プロデューサ入門講座

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基本情報 

科学プロデューサ入門講座

科学プロデューサ入門講座

 

  国立天文台の「一家に一台天体望遠鏡プロジェクト」の情報からたどり着いた合同会社科学成果普及機構という組織のサイトで存在を知った本。国立天文台科学文化形成ユニット編とある。内容は面白そうだけど一般的な書籍取次のルートで流通していないものなのか、どうにも素性が分からない。ciniiで大学図書館の蔵書を検索すると、国立天文台図書室と総研大付属図書館を除けば4館しか見つからない。著者陣の素性は良い意味で明らかなのに、本書の内容に関してはあまり情報が見当たらず、書評などもないので却って興味をそそられた。そんないきさつから、Amazon経由で一冊注文してみた。

  読む前に謎だった点は本書を読むとすべて説明されていた。出版社クオリティの校閲を経ていないらしく、どの章にも初歩的な誤字脱字が散見されるが、どちらかと言うと講義で使う資料を講師陣が手作りしたというもの。見た目はきちんと製本されているけれど、内容の充実したレジュメのような立ち位置とも言える印象だった。

 

 

科学文化形成ユニットとは

  そもそも科学文化形成ユニットとは何なのか。検索するといくらか関連するサイトや文書がヒットした。

宇宙映像利用による科学文化形成ユニット:トップ

 天文系科学コミュニケータのキャリアパス 縣秀彦 (http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2016_109_07/109_473.pdf) 天文月報2016年7月

 科学文化形成に向けての人材創出事業の課題と展望 -国立天文台科学文化形成ユニット5年間の活動の総括- 日本科学教育学会年会論文集 Vol.36(2012)

 

  簡潔にまとめると、国立天文台(と三鷹市)で行われた社会貢献事業の一種で、科学コミュニケーションに重きを置いた人材育成を目指すというもの。具体的には観測データ等を利用した映像コンテンツ制作を行う映像クリエーターや、科学コミュニケーションを事業として運営できる科学プロデューサの育成を行うため、各分野の専門家の協力のもとで養成講座を開講したというもの。2007年から5年に亘って行われた後、予算が新たに取れなかったため終了したらしい。

  本書はその講座の内容を集成、講座が終了した現在では新たに興味を抱いた人が内容を学べる講義録であり、また科学プロデューサ養成事業の成果をまとめたものでもある。

 

 

 感想

  国立天文台で行われた事業であるから天文学寄りの内容とはなっているが、必ずしも天文分野に限定されているわけではない。

大きく分ければ以下のトピックにまとめられる。

  • 科学コミュニケーションの概論
  • 科学ジャーナリズム・広報普及活動
  • 科学と映像制作について
  • 科学コミュニケーションの事業運営
  • SOHOビジネスとしての起業

  特徴は、あくまで科学コミュニケーションを事業として成立させることが目標であるため、ただの講義で終わらないビジネススクール的な側面が挙げられる。実際のシラバスを見ると、SOHO起業講座を平行して受講するように出来ているのがわかる。本書では卒業生のその後についてもまとめられており、分量こそ多くないがきちんと効果測定の視点がある。

 

  元々が映像利用を前提としているためか映像表現に関するパートは分量があり、力が入っている印象だった。映像そのものの製作法の解説ではなく科学映像というジャンルの特殊性にフォーカスした内容のため、既に映像制作を経験したことのある人であれば読んですぐに役立つ部分は多いと思う。

 

   本書中で通底しているのは、(科学)知識の伝達方法の探求に尽きると思う。科学の知識を伝達・共有する第一の方法は論文によるものであり、これは科学者のコミュニティで通常用いられる手段である。問題は、このやり方だと科学者以外には伝わらないということ。従前から存在するのは科学ジャーナリストを通じた情報伝達だが、報道や書物を通じた方法には限界がある(とくに分かりやすさと正確さのバランス。本書でも科学報道に関する章が2つあり、詳しく書かれている)。

  本書が扱うのは論文以外の方法であり、博物館での展示などの伝統的なものからサイエンスショーや映像メディア利用などの新しい方法まで多岐にわたる。方法は絞らず、可能性を提示・敷衍していくスタイルといえるかもしれない。それぞれの方法の歴史や特長、それから現状について。

 

 

科学コミュニケーションは職業になるか

  科学コミュニケーションを職業として成立させるのが難しいのは、科学コミュニケーター自体の認知度が低い等の課題もあるが、一番の問題は人にお金を出すことを渋る社会の風潮そのものだと思う。低賃金やボランティア頼みなことも多い(そして担い手はその仕事が好きで、彼ら彼女らの意欲に支えられている)。ソフト的な仕事にはお金が回らない*1。この分野でのマネタイズを成功させるには、科学コミュニケーションという局所的な分野での努力よりも、広く一般に「人の知識や技能に対して正当な対価が支払われるのが当然である」という風潮が醸成されなければ経済の循環に乗ることができず、職業としては成立しない思う。

  これは昨今の労働問題や低賃金問題などの文脈で取り組まれるべき課題であり、ここをクリアしなければ個々がどれだけ魅力的な発信をしていても、本業の合間に趣味やボランティアとして取り組む以外の道が閉ざされてしまう。

  本書での起業の例をみても、元々なんらかの商売をしている、仕事を通じた技術や人脈がある、などの商業的な基盤を持っていることが多く、科学コミュニケーション技能それだけをもって職業とするには困難を伴うのが想像できる。

 

  一方で、働き方改革にともなう労働時間の削減や副業解禁などのトレンドは市民による草の根活動に追い風となるかもしれない*2。消極的ではあるが、そういう「隙間」に科学コミュニケーションにマネタイズの能力を取り入れた科学プロデューサが出現する土壌は有り得ると思う。

   科学プロデューサ養成講座こそ終了したが、このような講座の知見が成書として出版されていることは意義のあることだと思う。一つ難を挙げるとすれば、この本へのアクセスがよくないという点。書店で見かけず、通常の公立図書館には無く、大学図書館にも殆どない。科学者と市民との橋渡しをする人材のための本が、どちらかといえば科学者サイドの人にしか見つけられない状況はもったいない。

 

  本記事執筆時点ではAmazonで普通に買えるので、興味のある人はどうぞ。

 

*1:知識にお金が流れる分野といえば受験産業が思いつくが、これは学歴を手に入れるためであるし、そのほか資格試験に関することも国家資格による独占業務と就業機会の拡大というメリットが大きい。ただし資格試験は趣味性の側面もあるため、例えばこの科学プロデューサ養成講座の卒業生が立ち上げた星検などはお金が回りやすい部分をうまく突いた事業といえる。

*2:良い話ではないが、残業の削減・禁止による収入の低下を補いたいという意欲も同様に追い風となるかもしれない

ブログにソースコードを貼るときのアレ

はてなブログソースコードを貼り付けるときシンタックスハイライトをさせる方法をいくつか検討。highlightsというものを使ってみました。はてブでつかえる、簡単に使える、色とか選べる、processingに対応してる、なるべくシンプル、という条件で選びました。

 

公式→ https://highlightjs.org/

 

 やり方はこちらのサイトを参考にしました。

yosiakatsuki.net

メジャーな言語ならブログのヘッダー行に特定のコードを書き込めばOK。

その他の言語も公式サイトでカスタマイズした.jsファイルを出力できるので、自分が使う言語を選択できる*1。公式でダウンロードした.jsファイルとcssファイルをどこかにアップロードして、ブログのヘッダーに書くコード内でパスを指定すると準備完了。

 

あとはHTML編集モードでこのタグの間に書きたいコードを挟めば良い。

<pre><code>hoge</code></pre>

以下はサンプル(?)として作った短いプログラムです。

スタイルはrailscastsを使用。processingです。

void setup() {
  size(400, 200);
  strokeWeight(0.5);
}

void draw() {
  noStroke();
  fill(225, 100);
  rect(0, 0, width, height);

  stroke(0);
  noFill();
  beginShape();
  for (int i = 0; i < width; i++) {
    float y = 60*sin((radians(i)-radians(mouseX)*10)/radians(mouseY))+100;
    vertex(i, y);
  }
  endShape();
}

 

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 マウスカーソルの位置によって正弦波が動くだけのプログラムです。

*1:processingはもちろんメジャーではないので公式サイトに行って選ぶ必要があります

NGC&ICカタログを入手する方法

New General CatalogとIndex Catalogの居場所です。

 

何度かの改訂があったためバージョンが複数ありますが、赤道座標の元期が現行のJ2000.0で星表などに手っ取り早く使えそうなのがこちら。

http://cdsarc.u-strasbg.fr/ftp/VII/118/

 ngc2000.datがお目当てのカタログ。names.datは固有名に関するデータです。

 

 同じものが国立天文台ftpサイトにも置いてある。

ftp://dbc.nao.ac.jp/DBC/NASAADC/catalogs/7/7118/

 

【読書感想文】 宇宙の果てまで―すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡

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GoogleMapsからマウナケアの天文台群。すばるは右下

  基本情報

以前読んだ『パロマーの巨人望遠鏡』(以後『巨人望遠鏡』と略す)に続き、今度は日本の国立天文台すばる望遠鏡*1を建設するお話。実際にプロジェクトの中核を担った小平桂一元国立天文台台長による自伝風の実録。『巨人望遠鏡』で翻訳を行った成相氏もすばる望遠鏡に参加しており、本書中でも度々名前が出てくる*2

   すばる望遠鏡は1999年1月に稼働を開始、この本は同年3月に出版された単行本が2006年に文庫化されたもの。

宇宙の果てまで―すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡 (ハヤカワ文庫NF)

宇宙の果てまで―すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡 (ハヤカワ文庫NF)

 

 

全体的な感想

 「外国ではこの手の望遠鏡を造らないんですか」

「いいえ、外国でも重要性を認めて計画を推進しています」

「それを使わせてもらえばよいではないですか。お金を一部払ってでも」

天文学者の答えは次のとおりだ。

カラヤンベルリン・フィルのCDが買えれば、日本にはオーケストラが無くて良いのでしょうか。自分たちで音を出したくはありませんか。文化の享受ではなく、文化の創造なのです。」(p233)

   『巨人望遠鏡』は一世紀前後の時間の隔たりがあるアメリカの話で、自分にとってはどこか伝説や神話の靄の向こう側を観ているような感があった。一方、本書は現代の日本(とハワイ)が舞台であり、同様に『巨人望遠鏡』の読者たちによる試みであるため、リアリティの体感値では切実さがより深い。

   『巨人望遠鏡』と違い、あくまで著者の一人称視点の記録であり、著者から見えないところでプロジェクトが動いている部分もあるため、『巨人望遠鏡』のような複眼的にプロジェクトを総観するものではなく、個人の心境が多く綴られている。

  著者は天文学者であり、プロジェクトを率い、後に国立天文台の台長を務めたため、技術的な視点よりは日本の天文学者としての大望遠鏡に対する想いと、組織や制度づくりに関する視点が優っていた。『巨人望遠鏡』では詳細に描かれていたガラス円盤の鋳造・主鏡研磨などは、本書では業者の選定・発注・完成後の輸送などの時点で軽く触れられるのみだった。

  その一方で、制度面での課題と取組みが多く触れられており、最先端の望遠鏡の必要性を論じるのはもちろん、それを運営するための人的な仕組みの構築に関して多くのページが割かれていた。基礎研究について、「それが何の役に立つか」が愚問であったとしても、公的な予算を取るためには説得のプロセスが必要であり、文部省や大蔵省はもちろんのこと、外務省や人事院に出向くなど、組織の運営者や事業家的な交渉の描写が多い。科学者が科学を語るだけで果たせる仕事ではないらしい。

  公的な予算獲得・使用の難しさの一方で、トヨタ財団からの支援を受ける場面では私的な資金の柔軟さについても述べられており、それが天文学振興財団の設立*3につながっていくなど、天文学そのものの発展に貢献するため制度面での整備を行っていく視点が印象的だった。

 

 

気になった細かい点

  • いまTMTと言えばThirty Meter Telescopeだが、本書では過去に存在したTen Meter Telescopeという構想について言及がある。

 

 

鏡のこと

  一枚鏡として当時世界最大のもの*4だったすばる望遠鏡の主鏡はガラス円盤の鋳造がコーニング社製、研磨を担当したのがコントラベス社だった。コーニング社はパロマーの200インチの円盤を鋳造したメーカーだが、コントラベス社は東京天文台に少し縁のある会社のようだった。

この会社は、昔「ブラッシェア社」と呼ばれた研磨会社の技術を引き継いでいると聞いていたので、行ってみる気になった。東京天文台にある一番古い小さな望遠鏡が、実はブラッシェア社製だったのだ。その会社はもうなくなって、オーエンス・イリノイという会社に技術が移り、それがまた解体されて、コントラヴェス社に伝わっているということだった。(p.136)

この「東京天文台にある一番古い小さな望遠鏡」が気になったので、調べてみると天文情報センターの資料に記載があった。

http://open-info.nao.ac.jp/engipromo/draftparts_2017/gk_22.pdf

現在、上野の国立科学博物館で展示されているトロートン製20cm屈折望遠鏡を購入したのが1880年(明治13年)、ブラッシャー天体写真儀はその16年後の1896年(明治29年)だとのこと。観測用のドームは取り壊されたが天体写真儀自体は現存しているらしいので、今度国立天文台に行ったらぜひ見てみたい。

 

  ニューヨーク州カントンという街にある工場で鋳造されたガラス円盤は研磨の為ペンシルベニア州ピッツバーグへ送られるが、輸送経路はセントローレンス川オンタリオ湖→ウェランド運河→エリー湖→陸路となっている。『巨人望遠鏡』を一度読んでしまうと鏡の輸送という作業が気になってしかたがないので、地図で調べてみた。

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ガラス円盤のざっくりとした輸送経路

  本書で詳しく描かれているわけではないが、オンタリオ湖エリー湖の間のウェランド運河が少し興味深かった。 2つの湖には高低差があり、エリー湖が高い位置にある。エリー湖からオンタリオ湖に注ぐ水の流れはナイアガラ川(ナイアガラの滝)として知られているが、今回の輸送ではこの流れを遡上しなければならない。

  自然の川が巨大な瀑布となっているため、水運のためには平行して建設された運河を通航することになる。運河には閘門(こうもん)と呼ばれる、異なる水位の間を行き来するための施設が合計8つあり、これを通過してエリー湖に至る。肛門ではない。

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GoogleMapsから、閘門が連なっている様子

  陸路では大きな荷物の運搬のため、交通整理などの措置が必要になる関係から、事前にペンシルベニア州警察に許可を得ることになっている。警察は運搬経路上のハイウェーへの車の乗り入れを控えるように地域へ呼びかけたため、かえって野次馬を引き寄せてしまったらしい*5

  パロマーの200インチ鏡でも輸送に関しては一騒動あったため、少しニヤッとなってしまった。ペンシルベニア州警察の中の人はもちろん『巨人望遠鏡』を読んでいなかったのだろうと思う。

 

  研磨を終えた主鏡はピッツバーグからオハイオ川からミシシッピ川へ入り、メキシコ湾に出る(p.393)。あらためて経路を確認してみると、アメリカを縦貫するミシシッピ水系の巨大さに驚いた。GoogleMapsの距離測定を信じると、海に出るまでに3100km弱の道程を旅したことになる。

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 暇だったのでかなり細かく計測点を打ってしまい、気持ち悪い絵面になった。鏡はメキシコ湾からパナマ運河を通って太平洋へ出てハワイまで運ばれる。

 
   ところで話が脱線してしまうが、鏡材を選定する過程でアリゾナ大学に触れられているエピソードを一つ。

同じ年*6の11月には、アリゾナ天文台の調査に出掛けた。アリゾナ大学のローエル天文台のロジャー・エンジェル博士は、ハニカム鏡の大々的な開発実験を進めている。アリゾナ大学の光学研究センターと協力して、フットボール競技場の観覧席の下の空間に、大きな鋳造工場を建設していた。(p.98)

  結局、アリゾナ大学との契約には至らなかったのですばる望遠鏡とは関係ないが、フットボール競技場の観覧席の下の工場は現在、各地の大望遠鏡の鏡の製作を行っているミラーラボという組織となっている。一枚鏡として世界最大となるLBT(大双眼望遠鏡)の8.4m鏡や、東京大学アタカマ天文台の6.5m鏡の製作を担った。

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観覧席の下というか、思ったよりハミ出してたミラーラボ

  素人考えだと鏡の製作はもっと静かな環境がふさわしい気がするし、コントラベス社の研磨工場は廃坑を利用した地下空間にあるが、それとはまるで対極にあるような喧騒のど真ん中にあるのが面白い。他に土地はなかったのか。


 「すばる」という名前

  世界最大クラスの望遠鏡でも、LBT(Large Binocular Telescope)とかVLT(Very Large Telescope)とかTMT(Thirty Meter Telescope)など中学生が考えたような名前(失礼)が付いていることもあるなかで、「すばる」という名前はとてもいいと思う。公募で選ばれ、最終的に「みらい」「すばる」の二候補となった中から選ばれたらしい(p.270)。

太平洋を航海したハワイの人々にとっては、水平線に昇るプレアデス星団が、空から見つめる神々の小さな眼に思えたのだろう。振り返って、僕らが大望遠鏡と称している口径八メートルも、宇宙から見れば、ちっぽけなものだ。何億年も何十億年もかけて広がってくる光の波の、ほんの微少な一部分だけが、この鏡の面に入る。地上に振りそそぐ他の光子は、すべて無駄だ。僕はこうして「すばる」の名を納得した。「昴」の漢字に現れるきらびやかさではなく、「人類の小さな眼」としての八メートル望遠鏡に託した、謙虚な祈りのような気持ちの表象としてだった。(p.272)

 


マウナケア山頂の夕暮れ、観測をスタートする「すばる望遠鏡」

 

 最後に、すばるの主焦点カメラHSCで撮影した画像を見れるビューアーがあるので、ここでいろいろ見てみよう。

hscMap

 

 

*1:

*2:逆に、『巨人望遠鏡』のあとがきでは成相氏が本書を挙げている

*3:p.290

*4:2019年5月現在は2番目

*5:p.321

*6:1983年のこと

赤経・赤緯を時分秒・度分秒から十進法表記に変換する(逆もあり)

◆赤道座標*1赤経(時分秒)・赤緯(度分秒)を角度(十進法)に変換 

赤経 ( α[h],  β[m],  γ[s] )

α*15 + β*15/60 + γ*15/3600   [deg]

赤緯 ( α[deg],  β[m],  γ[s] )

α + β/60 + γ/3600   [deg] 

  

◆逆に、角度(十進法)を時分秒や度分秒に変換

赤経 ( α[deg] )

: floor(α/15) [h]*2

: floor( ( α/15 - floor(α/15) )*60) [m]*3

: { ( α/15 - floor(α/15) )*60 - floor( (α/15 - floor(α/15) )*60 ) }*60 [s]*4 

赤緯 ( δ[deg] )

: floor(δ) [deg]*5

: floor( ( δ - floor(δ) )*60 ) [m]*6

: { ( δ - floor(δ) )*60 - floor( (δ - floor(δ) )*60 ) }*60 [s]*7

 ※赤緯δは符号が負となる場合がある。まずδの絶対値で度分秒を計算し、最後に符号を付けるのがオススメ。

  

計算の具体例

 実際の天体の具体的な座標を使用して、順を追って計算します。

例として輝星星表*8からベガとアクルックス*9赤経(時分秒)・赤緯(度分秒)を抜粋。HRは輝星星表の番号。RAが赤経(Right Ascension)・DEが赤緯(DEclination)です。

HR Name RAh RAm RAs DE- DEd DEm DEs
7001 Vega 18 36 56.3 + 38 47 1
4730 Acrux 12 26 35.9 - 63 5 57

輝星星表に固有名は無いので、Name列は私が勝手に書き込んだものです。

 

◆ベガの赤経(18h 36m 56.3s)を変換

18*15 + 36*15/60 + 56.3*15/3600 = 279.2345833 [deg]

↺ 求めた値を再び時分秒に変換

279.2345833/15 = 18.61563889 ・・・①

①の小数点以下を切り捨て→18 [h] ・・・①´

(① - ①´)*60 = (18.61563889 - 18)*60 = 36.93833333・・・①´´

①´´の小数点以下を切り捨て→36 [m]・・・①´´´

(①´´ - ①´´´)*60 = (36.93833333 - 36)*60 = 56.3 [s]

以上から、再び赤経(18h, 36m, 56.3s)が得られた。

  

◆アクルックスの赤緯(-63° 5m 57s)を変換

-63 + 5/60 + 57/3600 = -63.09916667 [deg]

 ↺ 求めた値を再び度分秒に変換

まずマイナス符号を取って絶対値で考える→63.09916667 ・・・②

②の小数点以下を切り捨て→63° ・・・②´

(② - ②´)*60 = (63.09916667 - 63)*60 = 5.95 ・・・②´´

②´´の小数点以下を切り捨て→5 [m] ・・・②´´´

(②´´ - ②´´´)*60 =(5.95 - 5)*60 = 57 [s]

最後にマイナス符号を付けて、再び赤緯(-63° 5m 57s)が得られた。

 

<ここから書き途中>

 

◆ついでに角度をラジアンに変換 

ラジアン

*(π/180) [rad]

ラジアン

(/3600)*(π/180) [rad]

 

 

*1:

astro-dic.jp

*2:αの床関数。αの小数点以下を切り捨てたもの。Excelの関数ならTRUNC(α/15)ないしROUNDDOWN(α/15, 0)と同等。

*3:元のαからを引いたものに60をかけ、小数点以下を切り捨てたもの。

*4:の計算時に切り捨てられた小数点以下の部分に60をかけたもの。

*5:δの床関数。δの小数点以下を切り捨てたもの。Excelの関数ならTRUNC(δ)ないしROUNDDOWN(δ, 0)と同等。

*6:元のδからを引いたものに60をかけ、小数点以下を切り捨てたもの。

*7:の計算時に切り捨てられた小数点以下の部分に60をかけたもの。

*8:輝星星表のデータを取得する - planet;nakanotori

*9:みなみじゅうじ座α星