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天文・鉱物・その他。調べたことや自分用のメモなどを書きます。

楕円軌道上の近点/遠点の表記について

天体の楕円軌道の近点/遠点を表記する用語は、どの天体を周回するかによってバリエーション豊富なため、整理してみます。

 

たとえば太陽を周回する軌道なら、近日点/遠日点となり、地球を周回する軌道なら近地点/遠地点となります。他の惑星も近*点/遠*点の*部を主天体の頭文字に置き換えれると次のようになります。

太陽 → 近日点/遠日点

水星 → 近水点/遠水点

金星 → 近金点/遠金点

地球 → 近地点/遠地点

火星 → 近火点/遠火点

木星 → 近木点/遠木点

土星 → 近土点/遠土点

しかし太陽と地球以外では用例があまりなく、一般的とは言い難い表現です。

 同様に、天王星海王星も近天点/遠海点などと表記出来そうですが、やはり用例が見当たりませんでした。水金地火木土天海という字は多義的なため、初見ではただちに惑星を意味する語とは推測し難いことや、惑星の近点を言いたいときは単に「*星へ再接近」などと表現すれば間に合うため、なじみのない表現として避けられてしまうことが考えられます。 文章中なら前後の文脈で判断出来そうですが、補足説明の要る語をわざわざ使う道理もないのでしょう。

 

月に対しては近月点/遠月点と表記できそうです。近月点で検索してみると*1用例は少ないですが、JAXA公式がyoutubeに投稿した月探査衛星の動画タイトル*2に近月点という語が使われていました。現状では星よりも字面からの類推が容易ですし、月探査が活発になるなど状況の変化があれば利用される機会が増えるかもしれません。

 

また、連星系の恒星では近星点/遠星点という表現があるようです。

 

英語ではどうなるか

英語では接頭辞peri-が近点、ap-/apo-が遠点を表し、主天体を象徴するギリシア語由来の語が後に続きます。

近点/遠点に相当する一般的な用語はperiapsis/apoapsisあるいはpericenter/apocenterとなります。*3

太陽(Helios)の場合、perihelion/aphelion

地球(Geos)の場合、perigee/apogee

となります。perigee/apogee人工衛星についてよく使われるので、衛星追跡系のサイトでよく見かけます。

近木点ならperijove、近海点*4ならperiposeidonとなり、いちいちかっこいいです。

近金点はpericytherion、アフロディーテを表す"Cytherea"が語源のようです。*5

月には-selene, -cynthion,-lune とバリエーションがあります。近月点をpericynthionとすると近金点pericytherionと似ているため、個人的にはperiseleneを支持したいです*6

 

銀河スケールにおける恒星の運動*7ではperigalaction/apogalactionという語もあるようです。

 

 また、ブラックホールを周回する恒星の軌道極点にも同様の語が付けられており、ロチェスター工科大学のBrianKoberlein氏*8の記事によると、ギリシア語で穴を意味するBothrosを用いて、peribothronとするようです。

遠点はapobothronあるいはapbothronとなるでしょう。

-bothronの他には-nigricon, -melasma*9などのバリエーションがあるようです。

 

本質的には同じ現象が、何故このように様々な呼び方をされるのか。理由はわかりませんが、先ほど引用したBrianKoberlein氏による記事の中に

There’s also the general term periapsis, but the cool kids like to use specific terms

という記述があり、必然性というよりは単に好まれている可能性が高そうです。

 

下表は英語表記をまとめたものです。*10

天体 近点 遠点
一般 periapsis apoapsis
太陽 perihelion aphelion
水星 perihermion apohermion
金星 pericyntherion apcyntherion
地球 perigee apogee
periselene aposelene
火星 periareion apoareion
木星 perijove apojove
土星 perichron apochron
天王星 periuranion apouranion
海王星 periposeidon apoposeidon
冥王星 perihadion apohadion
恒星 periastron apastron
銀河中心 perigalaction apogalaction
ブラックホール peribothron apobothron

 

 

*1:近月点ではなく近点月という語が検索結果に多数引っかかってしまうため、近点月を除外して検索したほうが良いです。

ちなみに近点月というのは朔望月や恒星月のように、月の公転に伴う周期の一種です。

*2:「かぐや」HDTV望遠カメラによる低高度(近月点) - YouTube

*3:今回、英語表記の参考にしているWikipediaの該当ページはApsisが見出し語です。

  Apsis - Wikipedia

*4:不用意に使うのは躊躇われる語ですが、この記事の文脈でなら許される気がしたので…

*5:余談ですが、Cythereaという名前のアメリカのポルノ女優がいるようです。えろい。

*6:私としてはperiluneより響きが好きです

*7:恒星が銀河の中を運動する際、銀河の中心に対する軌道極点

*8:肩書はSeniorLecturerとなっていますが、これは主に英国を中心とした表記で、文科省の資料では"上級講師"となっています。これがアメリカの大学でどう扱われるのかよくわかりませんでした。

*9:bothronが穴の意であることに対し、nigricon,melasmaは黒の意味から来ているようです。"ブラックホール"のブラックをとるかホールをとるか。これは日本語バーションをつくるとき近穴点/遠穴点とするか近黒点/遠黒点とするか、なんていう問題にも繋がりそうです。

*10:表記が複数種類あるものは私の独断と偏見で選びました。