基本情報
2001年に出版された『天文台の電話番』(地人館)を改題し文庫化したもの。著者の長沢工(ながさわ こう)氏のことは天文計算関連の著書がいくつかあるためそれらを通じて知っていたが、教科書的なもの以外は読んだことがなかった。軽めのエッセイのような読み物で、本を読むのが遅い私でもすんなりと読了できた。
感想
国立天文台広報普及室(今の天文情報センター)の質問電話を担当していた著者による体験談で、どちらかと言えば愚痴や苦言といったたぐいの話が多いが、私も民間企業(B2C)で不特定多数から来る電話対応の経験があるため、分野は違えど"あるある"だなと思う点が多かった。ちょっと調べれば分かるようなことを聞く人、なぜか喧嘩腰の人、質問電話の趣旨を理解せずに無理な注文を押し付ける人、とにかく話の長い人、まったく話の通じない人や何らかの妄想に執着している人など、どこにでもいるのだなと、変な感心をしてしまった。常識は儚い。
ちなみに国立天文台のサイトのよくある質問には、本書で挙げられた「よくある質問」がことごとく掲載されている。
また、質問電話の番号を掲げているページでは、本書で苦言を呈されているような困る種類の質問パターンを丁寧に例示している。電話番のノウハウがきちんと表に出ているのだなと感心した。逆に言えば、それだけリソースが逼迫しているのかなとも思う。
もちろん悪い話ばかりでなく、ほっこりする話もあるし(とくに子供の相手をする話。「サーターアンダギー」の章など)、質問電話だけでなく電話番をする"中の人"たちの話も楽屋裏話のようで面白い。
苦言は多くとも、天文の広報普及に尽くしたいという著者の想いからくるものであるので、読んでいて嫌な気持ちになるものではないし、天文に関する知識のない読者にとって、所々に挟まれる薀蓄はためになると思う。知識がある読者にとっては、普通のひとが天文分野についてどのような疑問を持っているか、何を知りたがっているかという点が参考になると思う。観望会のボランティアなどをする人にとっては小話のネタや想定問答の予習になるかもしれない。
そんなことを考えてみると、この質問電話も科学コミュニケーターの仕事の一つなんだなと、妙に納得してしまったり。