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天文・鉱物・その他。調べたことや自分用のメモなどを書きます。

天の北極と天の赤道と周極星のこと

この前の冬至の記事の要領を用いて、今度は北極星天の赤道の高度と周極星などについて書きます。また、この記事では説明をシンプルにするため、北半球からの観測のみを考えるものとします。

 

0.天球と赤道座標のこと

前提知識として、まず天球の解説をします。

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見かけの宇宙を、地球を中心とした半径が無限遠の球体とみなす概念が天球です。天文学の文脈では、地球上の北極、南極、赤道、経緯度などを天球上に転写した座標系をよく用います。それぞれ天の北極、天の南極、天の赤道赤経赤緯と称し、これらを用いた座標系を赤道座標と呼びます。天域や天体の所在地などを数値で表現できます。

 

1.天の北極(北極星)の高度

北極星*1の高度を求めます。

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太陽と同様、北極星無限遠にあるとみなせるため、地球の直径程度の視差は無視します。今回は簡潔に、地球を表す円周を省略して考えてみます。fig.2のように、円周を縮小し、中心点と重なるくらいにまで小さくしたと考えても大丈夫です。

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太陽の時と同様、円周の接線と北極星とのなす角が北極星の高度です。北緯36°の観測者から見た北極星の高度は、fig.3より36°です。天の北極は観測地点の北緯と同じ値になります*2。また、北極星の高度を測ることで、北半球の観測者は自分の現在地の緯度を知ることができます。

 

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なお、北極点(北緯90°)では天の北極は地軸の延長上、真上(高度90°)にあります(fig.4参照)。次に赤道直下(北緯0°)からみた北極星ですが、こちらも簡単です。地軸と同じ方向にある北極星は水平線と重なり、高度は0°となります(fig.5参照)。

 

 

2.天の赤道のこと

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地球の赤道から見て真上にくる大円が天の赤道です。冬だとオリオン座の真ん中を通っています。写真の三つ星の一番右、ミンタカという星がほぼ天の赤道上にある星なので、オリオン座を見つけたら「あの辺に天の赤道があるんだな」と思ってください。天の赤道を境に、北が北天、南が南天となります。

 

天球の緯度を表す赤経で90°の地点は天の北極、0°の地点は天の赤道です。ミンタカの正中高度、つまり天の赤道の一番高いところの高度は、北極星と同じように計算できます。

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北緯36°の観測者から見た場合、fig.6より90°-任意の緯度から計算できることがわかります。北緯36°の地点からだと、90-36=54°ということになります。赤道直下(北緯0°)ではもちろん高度90°、北極点(北緯90°)では水平線と重なり高度は0°です。

 

 

3.天球の観測南限*3

北半球から天の南極は見えず、南半球からは天の北極が見えません。観測地点によって天球の見える領域に制限があります。たとえば東京からみて、冬に見ることの出来るカノープス*4という一等星は正中時にすこしだけ水平線上に顔を出し、すぐに沈んでしまいます。東京近辺の緯度からだと、カノープスより南の星は常に水平線の下に隠れてしまい、見ることができなくなります。前節の北極点からみたミンタカと同様に、観測者から見た高度が0°付近というのは、そこが観測可能な天球の南限ということになり、もっと南の観測地からでないと見ることができません。

 

観測地点の緯度から、天球がどこまで見えるのか計算してみましょう。天球の緯度は北緯と南緯に分かれておらず、まとめて"赤緯"とよびます。天の北極が+90°、天の赤道が0°、天の南極が-90°です。南天の緯度はマイナス符号を付けて表すことが出来るわけです。

 

繰り返しですが、水平線の高度(高度0°)は90°から観測点の緯度を引くことで求められます。

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 東京を北緯36°とすると、ここから見える天球の南限は赤緯-54°となります。考え方は天の赤道を求める時と同じですが、天の赤道の場合は水平線を起点にして54°、こちらのケースでは天の赤道を起点にして南方に54°となり、南天なのでマイナス符号になります。

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fig.8は、北緯36°の観測者の地平を図中で水平となるようにおいたものです。カノープス赤緯が約-52°です*5から、正中時でも水平線からわずかに2°上方に登るのみとなります。赤緯が-54°よりも南の天体は東京よりも南の地域に行かなければ観測できないということがわかりました。

 

 赤緯約-57°のアケルナル*6の場合、東京からだと最大でも水平線の3°下方になるため、見ることができません。北緯33°の地点で水平線と重なり、北緯32°から見ると水平線から1°だけ顔を出します。

 

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ついでとばかりに、全天に21ある一等星の正中高度を全て図示しました。円周は天球です。*7

 

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これら一等星の全てを見ることの出来る地域も求めることができます。一番北のカペラから一番南のアクルックス(みなみじゅうじ座α)までの範囲が水平線の下にはいらないエリアを求めます。

アクルックス*8が高度0°となる緯度は90-63.06=26.94・・・①

カペラ*9が高度0°となる緯度は90-46=44・・・②

 ①は最も南の一等星が見える限界、②は最も北の一等星が見える限界ですので、北緯26.94°〜南緯44°までのエリアなら全ての一等星を見ることが出来る計算になります。ただし①や②の緯度では高度が0°であり、実際の観測は困難です。余裕を持ってアクルックスもカペラも15°以上の高度に上がるエリアとなると、北緯11.94°〜南緯29°となります*10

 

余談(^q^)→*11

 

4.周極星

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 今度は北向きの話です。北半球で北の方角をみると、天球は北極星を中心とした回転運動をしているようにみえます。北極星は年中沈みません。北極星に近い星も水平線の下に隠れないため、一年中観測できます。このような星を周極星と呼びます。北極星からどこまでが周極星なのかを計算します。北を向き、観測者からの見かけの高度が0°の水平線上が赤緯何度になるのかを求めれば、周極星を決定することができます。

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北緯36°の東京で考えます。水平線を起点にすると、北極星(天の北極)の高度は観測地点の北緯と同じであることは先に書いたとおりです。したがって北極星(天の北極)から水平線までは(赤緯)90°-(北緯)36°で54°となります。つまり、東京から見ると赤緯54°以北の天体は水平線下に沈むことなく一年中観測することができることがわかりました。

 

同じように、北緯90°の北極点では天の赤道以北のすべての星が周極星となり、赤道直下では周極星がないということも簡単に理解することができます。

 

 

*1:今現在、北極星として知られているのはこぐま座のα星・ポラリスです。実際には正確に天の北極にあるのではなくわずかにズレていますが、まあ大体北極でOKでしょという感じです。1000年単位でみると、天の北極は動いており(歳差運動といいます)ポラリス北極星なのは一時的なものです。歳差運動についてはまたそのうち書きます

*2:南半球では、観測地点の南緯が天の南極の高度と同じ値を取ります

*3:この言葉は私がいま適当に作ったものですから注意してください。ちゃんとした表現も探せば有りそうなのですが、私は今のところ知りませんm(_ _)m

*4:りゅうこつ座α星。全天で二番目に明るい一等星です。

*5:赤緯-52.42° 赤経6h24m 理科年表 平成28年版p.109による

*6:エリダヌス座α星。エリダヌス座は東京からも一部見ることができますが、アケルナルはエリダヌス座の南端の方にあり、見ることができません

*7:fig.9中の赤緯はすべて理科年表 平成28年版による

*8:赤緯-63.06°

*9:赤緯46°

*10:①・②の値からそれぞれ15を引いて求めました

*11:余談ですが、映画『ビルマの竪琴』(市川崑監督 1956年版。1985年版は見たことがないので脚本の差異などは知りません。)のラストで水島上等兵が隊の仲間に宛てた手紙の中で「わたくしは ビルマの国にいて 雪のつむ高山から 南十字星の輝く磯のほとりまで いたるところをさすらって歩きます」というくだりがあります。ビルマ(いまのミャンマー)をみると、

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国土の北端付近はヒマラヤ山脈の東端にかかり、南端はアンダマン海という海に面した北緯10°前後の地域となっています。まさに南十字星が見える沿海地域です。この手紙の一節は、ビルマ全土を端的に言い表した表現だったということがわかります。

ミャンマーの地形図の引用元(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC#/media/File:Burma_topo_en.jpg)